お知らせ
Vol.19(2021/03/11)当クリニックの抗体陽性者/世界と日本の最新動向/変異ウイルスの世界での感染状況/ワクチン接種状況/ワクチン副作用/ワクチン効果ほか
2度目の緊急事態宣言が1都3県で延長されました。日本では新規感染者数の減少ペースが鈍化し、変異ウイルスの影響も指摘されていますが、改めていま取りざたされている変異ウイルス3種類について日本への影響を考察します。
また、国内における医療従事者へのワクチン接種も進んでいます。世界では既にワクチン接種とその効果について論文が発表されており、ワクチン接種の進捗とともに、次を見据えた動きが始まっているようです。
日本国内においても速やかなワクチン接種が期待されるところです。
[1]抗体陽性率
2021年1月15日から2月14日までの、新型コロナ抗体陽性者は、306名中13名(4.2%)でした。
やはり多めで推移しています。
図1:当クリニックでの抗体検査陽性率
ちなみに厚労省からは、12月14日~25日にかけて、調査への参加に同意をいただいた一般住民の方(東京都3,399名)の抗体陽性率が0.91%と報告されましたが、これは2種類の抗体検査がともに陽性の人だけを扱っており、当クリニックと同じロシュ社の抗体検査の陽性率だけで計算すると1.8%でした。
当院と厚労省の2つの数値の差の原因としては、年末から感染者が急に増えた可能性、また調査に同意をした人の年齢分布や感染防御意欲などの差がありバイアスが生じた可能性があります。
[2]世界と日本の最新状況
NYタイムズによると、世界の新規発症者数は減ってきています。
図2:世界の新規感染者数(2021年3月10日時点)
ブラジルは変異ウイルスで増えているそうです。
図3:ブラジルの新規感染者数(2021年3月10日時点)
出所:The New York Times「Coronavirus World Map: Tracking the Global Outbreak」
https://www.nytimes.com/interactive/2020/world/coronavirus-maps.html
日本の新規感染者数は減ってきていますが、報道にあるようにまだ注意が必要です。
図4:日本の新規感染者数、入院治療等を要する者の数(2021年3月10日時点)
出所:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について 国内の発生状況など」
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1
[3] 変異ウイルスの世界での感染状況
濃い色は国内での変異ウイルス感染拡大、薄い色は旅行者からの変異ウイルス検出です。
1) B.1.1.7.型(VOC-202012/01):英国で発見され、感染力は30-50%強いと言われています。
日本でも国内で広がり始めています。
2)B.1.351型 (501Y.V2):南アフリカで見つかったもので、現在のワクチンが効きにくい可能性があります。
日本ではまだ広がっていないようです。
3)B.1.1.28型(501Y.V3):ブラジル型です。ブラジルへの旅行者をチェックしたところ、日本で最初に検出されました。これも現在のワクチンが効きにくい可能性があります。
出所:The New York Times「Coronavirus Variants and Mutations」
https://www.nytimes.com/interactive/2021/health/coronavirus-variant-tracker.html
出所:国立感染症研究所 2021年3月9日掲載「日本における感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルスの新規変異株症例について(2021年2月26日時点)」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10221-covid19-37.html
埼玉県は8日、県内に住む10歳未満から70歳代までの男女20人が、ブラジルで感染が広がる、変異した新型コロナウイルス(501Y.V3)に感染していたことを確認したと発表しました。
出所:NHKニュース2021年3月8日 21時05分「埼玉県 変異ウイルス 新たに20人感染確認」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210308/k10012904591000.html
ウイルスの変異は非常に早く、2019年12月に武漢で発見されたときにすでに12種類のウイルスがあったと報道されました。
新型コロナウイルスの発生源を探るため中国湖北省の武漢入りした世界保健機関(WHO)調査団の調査で、2019年12月に確認された武漢での感染は、これまで考えられていたよりはるかに広範に及んでいた兆候があることが分かった。
調査団は今回初めて、武漢では2019年12月の時点で既に12種類以上のウイルス株が存在していたことを突き止めた。
新型コロナウイルスが12月中旬に初めて公式に確認されるずっと前から中国国内で拡散していた可能性があるという懸念が一層強まった。
武漢や周辺地域で2019年12月に確認された174の症例について、中国の専門家チームから情報提供を受けて調査した。174人は重症だった可能性が高く、この数の多さから判断すると、武漢では12月の時点で1000人以上が感染していた可能性があると調査団は推定した。
出所:CNNニュース2021年2月15日掲載「武漢の新型コロナ感染拡大、より大規模だった可能性 WHO調査団 CNN EXCLUSIVE」
https://www.cnn.co.jp/world/35166483.html
[4]ワクチン接種状況
イスラエルは人口の90%にまで達しています。日本は非常に出遅れています。
図5:ワクチン接種率(英国、イスラエル、米国、EU、日本、シンガポールの比較)
出所:FINANCIAL TIMES「Covid-19 vaccine tracker: the global race to vaccinate」 https://ig.ft.com/coronavirus-vaccine-tracker/?
areas=gbr&areas=isr&areas=usa&areas=eue&areas=jpn&areas=sgp&cumulative=1&populationAdjusted=1
[5]ワクチン副反応について
日本感染症学会が先ごろ公開した提言の中で、ワクチンの副反応について触れています。
アレルギー既往者には注意が必要とのことですが、どれくらいの人にどういう副反応があるのか、取り上げます。
日本感染症学会は「COVID-19ワクチンに関する提言(第2版)」(以下、第2版)を策定し、2月26日に公開した。現在までの国内外の情報を踏まえると、「海外で接種が進んでいるファイザーやモデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの有効性は高く、副反応も一過性のものに限られ、アナフィラキシー以外に重篤な健康被害は見られていない」と報告。一方、米国の調査では両ワクチンを合わせたアナフィラキシーの発生頻度は100万接種当たり4.5回と紹介。発生例の94.5%を女性が占めており、特に「薬剤や化粧品へのアレルギー既往者では注意が必要」と明記した。ワクチンの長期的な有効性や安全性については不明な点はあるものの、「COVID-19の終息に向け、国内で承認された新型コロナウイルス(SARS‐CoV-2)ワクチンを接種することが望まれる」と強調した。
75歳を超える高齢者に対しては臨床試験での評価対象者数が不十分などの理由から「今後の検討課題」との見方を提示。また、基礎疾患がある人に関しても、いずれのワクチンの臨床試験においても患者の割合が20%台にすぎず、「評価は十分でなく今後の検討が必要」との見解を示した。
アナフィラキシーに関する報告を分析したところ、女性が94.5%を占め、アナフィラキシーの既往がある人の割合は38.7%であった。発生時期については、接種後15分以内が77.4%、30分以内が87.1%だった。症状は、大半が皮膚症状と呼吸器症状を伴うものであり、アナフィラキシーショックを疑う血圧低下は1例のみだったという。
◆重篤な副反応は9.2%、2回目接種後に高頻度に発生
頻度の高い副反応は、頭痛22.4%、 倦怠感16.5%、めまい16.5%、悪寒14.9%、嘔気14.8%。重篤な副反応が9.2%に見られ、死亡が1.6%報告された。死亡例は高齢者施設の接種者に多く見られたが、ワクチンとの明らかな関連が認められた事例はなかった。2回目の接種で副反応の頻度が高いという。
出所:メディカルトリビューン 医療ニュース2021年03月01日 18:10掲載「コロナワクチン、新たな重篤な副反応なし、日本感染症学会が提言」
https://medical-tribune.co.jp/news/2021/0301535470/index.html
図6:新型コロナワクチン副反応、どれくらいの人に起きるか
出所:NHKニュース2021年2月22日放送「【新型コロナ】ワクチンの副反応 どんな症状が?」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210222/k10012880101000.html
[6] ワクチン接種方法の注意
ワクチン接種後の副反応への対応策のほか、ワクチン接種に関する注意事項は、その接種データの蓄積に伴い、詳細化が進んでいます。
米国疾病予防管理センター(CDC)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンの使用について、臨床上の推奨や注意事項などをウェブサイト上で公開しており、随時更新している(最終更新は2月10日)
◆ワクチン接種後の反応
全ての接種者に対して、ワクチン接種後15分間の観察期間を設ける必要がある。ワクチンや注射に対する何らかの即時型アレルギー反応やアナフィラキシーの経験がある人は、ワクチン接種後30分間観察する。ワクチン接種後の反応(reactogenicity)として、局所反応(注射部位の痛み、腫れ、紅斑、ワクチンを投与した側の腕の腋窩リンパ節腫脹)や全身性の反応(発熱、疲労、頭痛、寒気、筋肉痛、関節痛)が生じる場合がある。mRNA COVID-19ワクチンを接種した人のうち、80~89%が少なくとも1カ所の局所反応を呈し、55~83%が全身性の反応を経験している。
全身性の反応はほとんどが軽度~中等度の症状で、ワクチン接種後3日以内に発症して1~3日で解消する。こうした症状は、高齢者(Pfizerワクチンでは55歳以上、Modernaワクチンでは65歳以上)よりも若年者で多く発生し、2回目の接種後の方が高頻度かつ強い症状が認められる。初回接種後に局所反応や全身性の反応を経験した場合でも、ワクチンによるCOVID-19の予防効果を十分に発揮させるために、ワクチン接種の禁忌に該当しない限りは2回目もワクチンを接種することを推奨している。
ワクチン接種後の局所反応や全身性の反応を治療するために、解熱薬または鎮痛薬(アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬[NSAIDs]など)を使用できる。
また、アレルギー反応を防ぐために、ワクチン接種前に抗ヒスタミン薬を投与することについても推奨していない。COVID-19の既往がある人にもワクチン接種を推奨する。
(中略)
1回目のワクチン接種後、注射部位での遅発性の局所反応(紅斑、硬結、そう痒症など)のみを呈した人は、2回目の接種に対する禁忌や注意事項には該当しない。1回目の接種で局所反応を経験した人が、2回目の接種時にも同様の反応を呈するかは明らかになっていないが、2回目の接種におけるアナフィラキシーのリスクにつながるとは考えられていない。免疫不全、自己免疫疾患、ギランバレー症候群、ベル麻痺の患者については、データは限られているもののワクチン接種は可能としている。
妊娠中の人に対するmRNA COVID-19ワクチン接種の安全性に関するデータは現時点でほとんどないが、mRNAワクチンは生ワクチンではないことから、妊婦や胎児へのリスクになる可能性は低いと考えられている。妊娠している人がワクチン接種を推奨される集団(医療従事者など)に含まれる場合は、接種を受けてもよい。なお、ワクチン接種後に他の人と同様の症状が生じる可能性があり、このうち発熱は妊娠の状況に悪影響を及ぼす恐れがある。妊婦がワクチン接種後に発熱などの症状を呈した場合には、アセトアミノフェンの投与を検討するとしている。
出所:日経メディカル2021年03月02日掲載「CDCがmRNA COVID-19ワクチンの接種上の注意点を紹介:新型コロナワクチン、接種後の反応と対処法は?」
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202103/569311.html
[7] ワクチン効果
1)イスラエルでのファイザー社ワクチンの効果に関する論文
世界最速で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの接種が進められているイスラエルにおいて、ファイザーとビオンテックが共同開発したmRNAワクチン・トジナメランの全国集団接種者のデータから同ワクチンの有効性を評価。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発症に対し94%の有効性が示され、臨床試験の結果とほぼ一致したことなどを、N Engl J Med(2021年2月24日オンライン版)に発表した。
2020年12月20日~21年2月1日に1回目の接種を受けた16歳以上でSARS-CoV-2感染の既往がない59万6,618例を対象とし、人口統計学的および臨床的特徴をマッチさせたワクチン非接種の対照59万6,618例を選出。1回目接種後14〜20日目、21〜27日目、2回目接種後7日目~経過観察終了日におけるSARS-CoV-2への感染およびCOVID-19発症、入院、重症化および死亡について検討した。
低下率
1回目接種後 14〜20日 | 1回目接種後 21〜27日 | 2回目接種後 7日目〜 | |
---|---|---|---|
SARS-CoV-2感染率 | 46%低下 | 60%低下 | 92%低下 |
COVID-19発症率 | 57%低下 | 66%低下 | 94%低下 |
COVID-19による入院率 | 74%低下 | 78%低下 | 87%低下 |
COVID-19重症化率 | 62%低下 | 80%低下 | 92%低下 |
COVID-19関連死亡率 | 72%低下 | 84%低下 | 死亡なし |
各期間におけるワクチンの有効性は、年齢にかかわらず一貫して認められた。
「今回の研究では、臨床試験で得られたトジナメランの有効性(efficacy)95%と同程度の94%という高い有効性(effectiveness)が推定された。また、COVID-19に7関連する入院や重症化、死亡というより深刻なアウトカムに対しても高い有効性が示され、有効性は経時的に高まる傾向が見られた。これらの結果は、トジナメランがCOVID-19パンデミックに伴う世界的に深刻な影響の軽減に有用であることを示唆するものである」
N Engl J Med. 2021 Feb 24. doi: 10.1056/NEJMoa2101765.
BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Mass Vaccination Setting
出所:メディカルトリビューン 医療ニュース2021年03月03日「イスラエル・コロナ集団接種94%の有効性:ファイザー・ビオンテック共同開発のトジナメラン」
https://medical-tribune.co.jp/news/2021/0303535486/
2)スコットランドでのファイザー社ワクチン(BNT162b2)およびアストラゼネカ社ワクチン(ChAdOx1)の第一回投与の後の効果に関して論文が出ました。
結論として、第一回ワクチン接種後の28-34日後ではCOVID19関連入院を、ファイザー社ワクチン(BNT162b2)では85%減少させ、アストラゼネカ社ワクチン(ChAdOx1)では94%減少させた。80歳以上を対象とした場合でも第一回ワクチン接種後の28-34日後ではCOVID19関連入院を両ワクチン併せて81%減少させた。1回の投与だけでも現実的に非常に有効であった。
出所:Effectiveness of first dose of COVID-19 vaccines against hospital admissions in Scotland:
national prospective cohort study of 5.4 million people
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3789264
3)アストラゼネカ社ワクチン(ChAdOx1)は2回目投与を3か月以降にしたほうが、効果があるようです。
下記の図のように1回目と2回目の間隔を、6週間未満、6-8週間、9-11週間、12週間以上に分けて検討したところ、縦軸のワクチン効果率も横軸のワクチン投与後の抗体価も、間隔が長い方が順に上昇しました。
つまりワクチン投与間隔は12週間(3か月)以上が最も効果的でした。
図7:2回目の投与から28日後の結合抗体と中和抗体の関係性
出所:The Lancet
Single-dose administration and the influence of the timing of the booster dose on immunogenicity and efficacy of ChAdOx1 nCoV-19 (AZD1222) vaccine: a pooled analysis of four randomised trials.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00432-3/fulltext
[8]COVID19に既に感染した人はワクチン一回投与だけでも抗体価がかなり上昇するようです。
未感染もしくは抗体価が上昇していなかった人は、ワクチンの第一回接種の2週間後には抗体価は1000X程度まで上昇したが、無症候性感染者および症候性感染者では7日目から抗体価が30000Xまで上昇した。
従って既感染者は無症候であってもワクチンは1回投与で良いと考えられた。
図8:医療従事者におけるワクチンの単回投与後の抗SARS-CoV-2抗体反応
出所:Binding and Neutralization Antibody Titers After a Single Vaccine Dose in Health Care Workers Previously Infected With SARS-CoV-2. JAMA. Published online March 1, 2021.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2777171
[9]ワクチンパスポートについて
ワクチン接種後には旅行を含めた制限を緩和しようという動きがあります。
すでにイスラエルでは2回目の接種を終えた人にワクチンパスポートの発行を始め、保有者には映画館やホテル利用のほか、国内外の自由な旅行も認められています。
大手のIT会社が開発を始めています
1)Digital Health Pass:IBM and Salesforce
https://www.ibm.com/products/digital-health-pass
2)Vaccination Credential Initiative: Microsoft, Salesforce and Oracle, as well as U.S. health care non-profit Mayo Clinic
https://www.cnbc.com/2021/01/14/microsoft-salesforce-and-oracle-working-on-covid-vaccination-passport.html
3)The Commons Project:The World Economic Forum, Rockefeller Foundation.
https://thecommonsproject.org/
4)Google and Apple
5)Digital Green Pass:The European Union
またすでに航空業界ではTravel-Passの導入試験に入っているようです。
国際航空運送協会(IATA)は、digital Covid Travel Passを「数週間以内に」使用開始する予定だ、と述べています。
IATAによると、iOSでもアンドロイドでも使用できるアプリで、乗客は無料で利用できるようになる予定です。
シンガポール航空では12月から試験運用を開始した最初の航空会社で、アジア・太平洋地域のほとんどの航空会社で検討されています。
尚、IATAによると、紙の証明書はリスクが大きすぎると考えられています。既に空港で陰性証明を売りつけるなどの詐欺行為がフランス、マレーシアで摘発されており、やはり電子証明が重要と考えられています。
図9:IATAトラベルパス参加航空会社
出所:BBC News 2021年2月23日「Covid: Airline industry travel pass ready ‘within weeks’」
https://www.bbc.com/news/business-56165563
IATA Webサイト「IATA Travel Pass Initiative」
https://www.iata.org/en/programs/passenger/travel-pass/
※当ページの内容は「2021年3月11日」時点の情報です。