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Vol.26(2023/01/25)世界の感染動向と国内の抗体保有率/当クリニックの抗体検査陽性率/脳神経系のコロナ後遺症/新型コロナ「5類」へ分類変更

まもなく4年目に入るコロナ禍の生活は、今や「第8波」を数え、いつでも誰でも感染しうる可能性のある状況です。
この感染症に関する法律上の分類変更が議論される一方で、感染後の後遺症に関して分かってきたこともあります。
今回は、国内外の感染動向を確認しつつ、脳神経系の新型コロナ後遺症に関する最新情報をお届けします。

[1]新型コロナウイルス感染症に係る世界の状況報告

全世界的には感染者数、死亡者数の減少が認められています。

図1:2023年1月8日時点の週別又はWHO管轄地域別の新型コロナウイルス感染者数及び世界の死亡者数の推移

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出所:COVID-19 Weekly Epidemiological Update(WHO)2023年1月11日
https://www.forth.go.jp/topics/20230112_00001.html

[2]日本国内のコロナ抗体保有率に大きな地域差(9%~46%)

厚生労働省は4日までに、新型コロナウイルスへの感染によってできる抗体の保有率(速報値)が全国で26.5%だったと発表した。都道府県別では9~46%と地域差が大きく、直近の感染状況に影響を与えている可能性が示唆された。年齢が高くなるにつれて保有率が下がる傾向も見られた。
調査は11月6~13日に実施。日本赤十字社の協力を得て、献血に訪れた全国の16~69歳の男女8260人の血液から、ウイルス感染によって得られる抗体の有無を調べた。
保有率の最も高かった地域は沖縄(46.6%)で、大阪(40.7%)、鹿児島(35.2%)、京都(34.9%)、熊本(32.9%)の順だった。最も低かったのは長野(9.0%)で、徳島(13.1%)、愛媛(14.4%)、新潟(15.0%)、岐阜(15.5%)と続いた。
年齢別に見ると、16~19歳(38.0%)が最も高く、20~30代までは3割を超えた。ただ、年齢が上がるにつれて保有率は下がり、60代(16.5%)が最も低かった。
抗体保有率が10%を下回った長野では、11月に過去最多の新規感染者数を記録。一方で半数近い保有率の沖縄では、今夏に過去最多の新規感染者数を記録したものの、現在は全国よりも低い傾向となっている。
2~3月に東京、大阪、宮城、愛知、福岡の5都府県で行った前回調査では、1.49~5.65%と低い抗体保有率だった。

出所:コロナ抗体保有率に地域差9~46%、感染状況に影響か―全国では26.5%・厚労省 2022年12月05日(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022120400168

[3]当院のCOVID-19抗体検査の結果に関して

当院では感染抗体と中和抗体を測定しており、毎月集計しています。
(これは都内の定点観測としてはほぼ唯一のデータであると考えています)

感染抗体のカットオフ値は1であるため、1以上を陽性として報告していますが、1以上の陽性者数の動向は、(図2)を参照してください。

図2:東京ミッドタウンクリニックでの抗体検査の陽性率

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実際には感染が軽度であった場合には、1年以上経過すると感染抗体が1以下となり、陰性に判定される例が出てきています。全く感染歴のなかった症例では、感染抗体は0.1以下となっていることから、感染抗体が0.2以上の症例数のデータを再カウントしました。
結果は下記の(図3)の通り、2022年8月以降は過去に1回以上の感染歴をもつひとは40%以上であると考えられます。

図3:東京ミッドタウンクリニックでのCOI検査数・COI値0.2以上の割合の推移

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[4]脳神経系のコロナ後遺症に関して

新型コロナウイルスの後遺症のうち、脳神経系の症状についての最新情報です。

1)新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き

【精神・神経系の罹患後症状について】
精神・神経系の罹患後症状は、中枢・末梢神経系、筋・骨格系、内臓系および精神・心理活動のいずれかの機能部位(臓器)の異常も原因の一端であると考えられ、例えば図6-1の概念図に示されるように、複数の機能部位(臓器)に関連する症状である場合が多い。また、著しい炎症反応に伴うさまざまな臓器への器質性障害および免疫応答における異常も背景要因の一つと考えられており、大半の症状では時間と共に回復することが見込まれ、適切な病後のフォローとセルフケアによって、早期の改善または重症化予防が期待される。

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精神・神経系の罹患後症状は、精神・神経系の基礎疾患や素因を基盤とするものもあり、基礎疾患の増悪との鑑別が必要であること、また、まれに発熱や息切れなどの呼吸・循環器系等の症状と鑑別が必要な罹患後症状が出現する場合もあり得ることを念頭に置くべきである。脳神経内科領域の病態は多岐にわたる。したがって、基本的なアプローチの指針としては、直ちに専門家や総合病院等へ紹介するよりは、病後の担当医やかかりつけ医等で一定期間の経過観察を行うことが望ましい。加えて、心理的要因が強く疑われる場合でも、不意に精神科へ紹介されたことによって不安が増す可能性もあり得ることから、急を要する場合を除いては、直ちに精神科への受診勧奨を行う必要はないと考えられる。

【発生頻度および成因(メカニズム)について】
精神・神経系関連の罹患後症状のうち、多くの報告に共通してみられるのは倦怠感・易疲労性である。英国国家統計局の発表によると、COVID-19罹患後5週時点の有病率は11.9%とされるが、文献により発生頻度にばらつきがあり、おおよそ40~80%、多いものでは90%を超える記載もある。また、症状の発生頻度は、COVID-19の重症度に依らないという報告もある。

背景となる要因は、中枢神経系、末梢神経系、および心理的要因などの関与が示唆されており、中枢神経系における主な機序としては、①長期間に及ぶ免疫応答によるグリア細胞への障害、②血液脳関門(Blood-brain barrier)の機能低下と血管透過性の亢進などが報告されている。
また、Brain fog(脳の霧)と呼ばれる「頭がボーっとする」ような症状や、実行(遂行)機能や集中力の低下などは中枢神経系を中心とする特徴的な症状と言われている。また、著しい炎症反応に伴って凝固能亢進が惹起され、血栓ができやすくなることで脳梗塞や脳出血のリスクが増大する可能性も示唆されており、注意が必要である。精神・心理系の主な罹患後症状としては、不安・焦燥感、抑うつおよびPTSD(心的外傷後ストレス障害)などがあげられ、入院後1カ月時点の有病率は56%、米国の大規模コホートにおける後方視的研究の3カ月時点での有病率は18.1%(このうち新規罹患者は5.8%)との報告があり、上述の倦怠感・易疲労性などの背景要因ともなり得る。

このほか骨格筋および末梢神経における器質性の障害などによるさまざまな痛みや痺れ(しびれ)と、起立性調節障害(OD:orthostatic dysregulation、POTS:postural orthostatic tachycardia syndrome など)に加えて、長期間の入院(臥床)に伴う廃用性の筋力低下、集中治療後症候群(PICS:post intensive care syndrome)などによる倦怠感・易疲労感も考慮する必要がある。

出所:新型コロナウイルス感染症 COVID-19診療の手引き(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000860932.pdf

2)日本人の「コロナ後遺症」実態調査、日常生活に影響が大きいのは男女どちら?

【頻度の高い症状は、倦怠感、抑うつ、ブレインフォグ、頭痛など】
解析対象は、2020年1月6日~2021年10月2日に都内の外来診療所(ヒラハタクリニック)を受診したlongCOVID患者のうち、COVID-19発症から28日以上経過後に持続、または発症した症状のある1,898人から、解析に必要なデータが欠落していた7人を除外した1,891人。平均年齢は37.8±12.2歳で、女性が59.7%を占め、受診の時期は、パンデミック第1波が1.8%、2波が5.9%、3波が41.8%、4波が18.2%、5波が32.2%。ワクチン接種が完了しているのは3.1%だった。

LongCOVIDの症状による日常生活動作への影響を、パフォーマンスステータス(PS)スコアという10点満点の指標で評価すると、平均3.1±2.4点だった。なおPSは、日常生活への影響が全くない場合は0点、終日臥床し全介助状態のいわゆる"寝たきり"の場合は10点と判定する。平均点に近い3点は、症状のために仕事を月に数日休む必要がある状態に当たる。実際、解析対象者のうち罹患前と同様に就労しているのは23.7%に過ぎず、14.2%は勤務時間を短縮して就労していて、20.9%は休職中か退職・解雇後だった(そのほか、8.3%は非就労、32.8%は不明)。

訴える症状の数は平均8.4±3.2種類であり、頻度の高い症状は、倦怠感(90.3%)、抑うつ(81.2%)、ブレインフォグ〔頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態(76.2%)〕、頭痛(71.2%)、呼吸困難(68.9%)、不眠症(63.8%)、動悸(61.7%)、体の痛み(60.6%)、嗅覚障害(52.4%)、食欲不振(50.6%)、味覚障害(45.2%)、脱毛(44.8%)などだった。

PSスコアが6点(週の50%以上を休息している場合)以上をPSが特に低下した状態と定義すると、24.0%が該当。年齢や性別、受診時期(パンデミック第何波に当たるか)、ワクチン接種状況、就労状況などを調整後に、PS6点以上であることと関連する因子を検討すると、女性〔β=0.27(95%信頼区間0.08~0.47)〕、時短勤務者〔通常勤務者を基準にβ=1.59(95%信頼区間1.27~1.91)〕、休職中または退職・解雇後〔同3.64(3.35~3.93)〕、非就労〔同1.67(1.22~2.21)〕が有意な関連因子として抽出された。

著者らは、「女性はlongCOVID罹患時にPSが低下しやすいことが示唆され、就労状況とPSとの有意な関連も認められた」と結論を述べるとともに、「日本のlongCOVID患者の特徴の全体像を把握するためには、さらなる研究が必要」としている。(HealthDay News 2023年1月10日)

出所:日本人の「コロナ後遺症」実態調査、日常生活に影響が大きいのは男女どちら?(ダイヤモンドオンライン/ヘルスデーニュース)2023.1.14
https://diamond.jp/articles/-/316050

3)ブレインフォグの仕組み

新型コロナからの回復後も長く持続する神経と行動の問題が報告されてきた。その一つに、頭の中に霧がかかったようになる「ブレインフォグ」という症状がある。ブレインフォグは、(人、時間、場所が分からなくなる)見当識障害、記憶喪失、慢性頭痛、しびれを引き起こし、新型コロナ後遺症患者の40%近くが苦しめられている。

ヒトの神経細胞(ニューロン)は、細胞体、長い軸索、クモのような樹状突起で構成される。神経細胞同士の接合部位「シナプス」によって、神経細胞は互いにコミュニケーションをとることができる。

スウェーデンのカロリンスカ研究所の科学者たちが、脳オルガノイド(実験室で培養した小型の脳組織)に新型コロナウイルスを感染させたところ、神経細胞(ニューロン)間の結合部である「シナプス」の破壊が促進されることが分かった。2022年10月5日付けで学術誌「Molecular Psychiatry」に発表された。ニューロン同士をつなぐシナプスが過剰に刈り込まれることが、新型コロナ後遺症患者のブレインフォグを引き起こしている可能性があるとの結論が出た。「おそらくこのことは、新型コロナから回復してしばらく経過しても様々な神経症状がみられる理由の一つかもしれません」「ごくわずかな量のウイルスが脳オルガノイド内で急速に広がり、極めて多くのシナプスが除去されたことは実に衝撃的でした」と話す。

■ 学習にはシナプスの刈り込みが不可欠
脳は密集した神経細胞のダイナミックなネットワークでできており、神経細胞は末端部の「シナプス」を介してコミュニケーションをとっている。そのシナプスは、人間が学習するにつれて変化する。「シナプスは基本的に、神経細胞同士が会話し、脳のある部分から別の部分へ情報が伝達される仕組みを担っています」「シナプスは、記憶や運動制御、感情など脳の全ての機能に関わっており、接続のしかたが常に変化している。「私たちはそのようにして学んでいるのです」とのこと。

コミュニケーションが頻繁に行われる神経細胞にはシナプスが多いが、コミュニケーションが少ない、あるいは全くない神経細胞はシナプスが少ない。「ミクログリア」と呼ばれる免疫細胞によってシナプスが刈り込まれるためだ。ヒトの脳にはミクログリアが細胞数の17%を占める部分もある。ミクログリアは脳内を移動して死んだ細胞を食べたり、不要なシナプスを除去したりすることで、脳内の清掃作業を行っている。

シナプスの刈り込みは、胎児や乳幼児などの発達中の脳で最も活発に行われるが、健康な脳では生涯にわたって継続され、新たな記憶を形成したり、不要になった記憶を消去したりするために必要だ。また、脳が損傷から回復する際にも、シナプスを強化して失われた能力を再学習したり、機能しなくなったシナプスを除去したりするのに必要不可欠だ。

■ 脳オルガノイドを用いた神経損傷の研究
研究者らは、新型コロナウイルスがシナプス結合を直接刈り込むのではなく、ミクログリアを活性化していることを、脳オルガノイドを使って突き止めた。
「新型コロナウイルスに感染後、ミクログリアがどういうわけか免疫反応を起こし、通常よりも多くのシナプスを食べてしまうことを発見しました」と言う。

シナプスの過剰な刈り込みは有害になりえる。統合失調症などの神経発達障害や、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患との関連性が指摘されている。
新型コロナウイルス感染後の脳オルガノイドで起こるようなシナプスの過剰な除去がヒトの脳でも起これば、必要不可欠な結合が破壊されてしまうかもしれない。また、新型コロナに感染した人が長期にわたって神経症状に苦しむ理由は、この現象によって説明できる可能性がある。
「シナプスが過剰に除去されると、新たな記憶を形成したり、既存の記憶を思い出したりする能力に影響がでると予想されます。また、ブレインフォグでみられる脳機能の低下の説明になる可能性があります」と言う。

このことは2022年7月5日付けで学術誌「Brain」に掲載された米国立衛生研究所(NIH)による研究の結果と一致している。この研究は、新型コロナウイルスが直接脳に侵入していなくても、ウイルスに反応して作られた抗体が脳の血管の表面の細胞を攻撃して損傷と炎症を引き起こし、ミクログリアを活性化しうることを発見した。

■ シナプスの消失が脳の縮小を引き起こす?
2022年3月7日付けで学術誌「ネイチャー」に掲載された英国の研究では、軽度の新型コロナ感染症でも、灰白質の減少を通じて脳が損傷し、10年分の老化に相当する変化が起こりうることが示されている。灰白質は大脳や小脳の表層(皮質)にあり、運動・記憶・感情の制御に必要不可欠な部位だ。
「MRIで見られる灰白質の体積や厚さの減少が、何によって引き起こされているのかはまだ分かっていません」と、この研究を主導した英オックスフォード大学の神経科学者グエナエル・ドゥオー氏は言う。
研究で示されたシナプスの除去は、灰白質が変化する原因のごく一部である可能性があり、脳の縮小をもたらす他の要因を明らかにするためには、画像と組織片を組み合わせたさらなる研究が必要だと氏は指摘する。

出所:コロナ後遺症の「脳の霧」シナプスの破壊が一因か(ナショナル ジオグラフィック 2022年12月26日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD079ND0X01C22A2000000/

[5]感染症法上の「5類」へ 変更の動き

政府は今春に新型コロナウイルスの感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ「5類」に変更する。法律に基づいた行動制限はなくなる。感染者や濃厚接触者の自宅待機などの対策は一律の要請はなくなり、一般的な風邪などと同様の自主的な判断に移る。

図4:濃厚接触者の待機期間の推移

感染症法は病原性などに応じて感染症を1~5類や「指定感染症」などに分けている。コロナは「新型インフルエンザ等感染症」で、結核などを含む2類以上の厳しい措置をとれる。

たとえば同法の第44条の3は都道府県が感染者や感染の疑いのある人に外出自粛を求められると定めている。入院勧告や就業制限も可能だ。

流行当初は第15条に基づく疫学調査で、保健所が行動履歴などから感染の疑いのある濃厚接触者を絞り込んでいた。感染者が増えた今は、家庭内での接触を除けば、事業者や個人の判断に委ねている。

具体的な扱いは厚生労働省が自治体向けの事務連絡などで示している。濃厚接触者の定義はウイルスの特性にあわせて変えてきた。今は感染リスクが高いとされる発症2日前以降に陽性者とマスクなしで「およそ1メートル以内の距離で15分以上」過ごした場合などがあてはまる。

外出を避けて自宅や宿泊療養施設で待機する日数は原則として感染者が7日間、濃厚接触者が5日間。こうした規定は5類に移行すればなくなる。自治体による入院勧告や就業制限などの権限もなくなる。

入院先の調整、待機期間中の健康観察といった行政の仕事は必要に応じて維持しつつ段階的に縮小する。患者の健康状態の把握は医療機関の通常の業務の範囲になる。

これまで発熱外来など一部に限っていた診療も段階的にすべての医療機関に移行する。身近なありふれた病気として、特別な危機対応は縮小していく流れだ。政府が法令とは別に求めてきたマスク着用などのルールも大幅に緩和する。

最近のデータでは致死率などは既に季節性インフルエンザ並みに下がっている。厳しすぎる措置が社会経済活動の正常化の妨げになっているとの指摘も増えていた。
警戒を怠っていいわけではない。足元では流行第8波が続き、高齢者を中心に死者数が過去最多の1日500人超となる日もある。円滑な移行のためにも、患者が必要な医療を受けられる基盤などは維持していく必要がある。

出所:コロナ「5類」、濃厚接触者ら待機撤廃 対策は自主判断(日経新聞 2023年1月23日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA20BNL0Q3A120C2000000/