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Vol.12(2020/8/14) 「With コロナ」当クリニックでの抗体検査/クラスター分析結果/最新ワクチン開発状況/ほか

新規感染者数の増加に関するニュースが連日報道されていますが、その背景に新型コロナウイルスが変異し続けていることも明らかになっています。ウイルスの特徴が解明されていくなかで、国内外の製薬メーカー・研究所がワクチンの開発と研究を着々と進めています。
今号では「Withコロナ」と題して、現在の状況を俯瞰したうえで、ウイルスにどう向き合っていくのか考えるヒントを探りたいと思います。

[1]当クリニックでの抗体検査について

当クリニックの人間ドックや外来で行った抗体検査(6月15日から7月14日まで)の結果、抗体陽性率は405例施行中の8例で1.97% でした。発熱や咳などの症状がない(過去2週間以内にもなかった)方を対象に実施いたしましたが、抗体検査で陽性が出るということはやはり「不顕性感染が多い」と考えられます。
現在、当クリニックでは抗体検査に加え、PCR検査も安全な環境で提供しており、今後は抗原検査も検討していきます
Withコロナ時代に安全な医療を供給できるように工夫しています。

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出所:厚生労働省HP「国内の発生状況など」
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1

上のグラフは、日本の日別の新規陽性者数のグラフです。6月下旬以降、明らかに増えています。
高橋義明氏(中曽根平和研究所・主任研究員)の「エピセンター化した新宿から感染が広がる実態と原因(JBpress2020年07月21日)」によると、「新宿区在住者の累計感染者が7月19日に10万人当たり422.1人に達した。つまり、住民240人に1人が感染したことを意味し、イタリアの感染率(406.0人)を超えた。」とのことです。

[2]日本のウイルスは変異し続けています:クラスター分析の結果

日本の新規陽性者数が6月下旬から増加傾向にある背景として、新型コロナウイルスの遺伝子の変異が指摘されています。

国内の新型コロナウイルス感染症を巡っては、1~2月に入った中国・武漢由来のウイルス株は終息し、3月に海外からの帰国者らが持ち込む形で国内に流入した欧州系統のウイルス株が流行を起こしたことが、同センターの研究で既に判明している。

7月16日までの結果から、現在の流行の起点は6月中旬に顕在化したクラスターとみられ、その後出張など人の動きによって全国に広まった可能性があるとした。

また、現在の流行の起点となったクラスターのウイルスゲノムは、3月中旬に国内で確認された欧州系統のウイルス株から6塩基変異していた。新型コロナウイルスのゲノムは1カ月で2塩基のペースで変異すると推定されており、時期も一致する。この3カ月間に明確な「つなぎ役」となる患者やクラスターが確認されていないため、軽症や無症状など患者として見つけられないまま感染がつながっていたとみている。

黒田誠センター長は「起点となるウイルス株は、3月に国内に持ち込まれた欧州系統のウイルス株につながっているとみられる」としている。

ウイルスゲノムの調査は積極的疫学調査を支援するのが狙い。塩基の変異を足がかりに、ゲノム情報を基にしたクラスターを認定している。同センターは報告書でこうした分子疫学が「地域名や業種を特定して名指しするものではない」とした上で、「東京型、埼玉型といった地域に起因する型を認定するような根拠は得られていない」と指摘した。

出所:「感染拡大 もとは3月流入の欧州系 6月クラスターを起点に全国へ 感染研解析」
毎日新聞 / 2020年8月6日
https://news.yahoo.co.jp/articles/cc3773a32634d71943b431fee79cd362604e1850

この報道の根拠となった、国立感染症研究所の発表には、以下のような指摘もあります。

6月下旬から、充分な感染症対策を前提に部分的な経済再開が始まったが、収束に至らなかった感染者群を起点にクラスターが発生し、地方出張等が一つの要因になって東京一極では収まらず全国拡散へ発展してしまった可能性が推察された。

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出所:国立感染症研究所:新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査2(図も含む)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9787-genome-2020-2.html

[3]Johns Hopkins Internationalのモハン チェラッパ氏のブログから

全世界のCOVID-19統計情報で有名なアメリカのJohn Hopkinsが、この危機を乗り越えるために世界の連帯を呼び掛けています。当該記事を書かれたモハン チェラッパ氏は、ミッドタウンクリニックの開院から10年間いろいろな面でお世話になった医師でもあります。

https://international.blogs.hopkinsmedicine.org/2020/07/14/together-is-the-only-way-through-this-crisis/

Together Is the Only Way Through This Crisis

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Jul 14, 2020 | posted by Mohan Chellappa | Collaboration, Health Innovation, Health System Sustainability | No comments

[4]世界のワクチン開発状況に関して

世界中が注目している「ワクチン」に関して、その開発状況をニューヨークタイムズがまとめています。
現時点において、限定的に認可されたものが1つ、認可前の最終フェーズである第3相試験に至ったものが7つあります。日本のAnGes社が開発しているワクチンは現在、第2相試験を実施中です。

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●第2相試験済み・限定的使用許可
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中国企業のCanSinoは中国軍医学アカデミーの生物学研究所と共同で、アデノウイルス(Ad5)を利用してワクチンを作成し、第2相試験で強力な免疫反応が得られたため、中国軍は使用許可を与えました。

●第3相試験
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米国のModernaはNIHと共同で7月27日にメッセンジャーRNAを利用したワクチンの第3相試験を開始、米国で3万人に投与予定。既に1000億円の財政援助をうけています。

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ドイツのBioNTech,米国のファイザーと中国のFosun PharmaはメッセンジャーRNAを利用したワクチンを開発し、7月に第1・2相試験の結果が良好であったと発表しました。7月27日に米国、アルゼンチン、ブラジル、ドイツで3万人の第2・3相試験を開始と発表しました。米国は6億本の契約を結び、日本も1.2億本の契約を結んでいます。2021年末までに13億本のワクチンを生産すると見込んでいます。

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アストラゼネカは英国のオックスフォード大学と共同でチンパンジーのアデノウィルス(ChAdOx1)を利用したワクチンを開発し、第1・2相試験で安全性と免疫反応を確認しました。第2・3相試験を英国、インド、ブラジル、南アフリカで開始しています。アストラゼネカは10月には緊急ワクチン供給を目指し、承認された場合は20億本の供給体制と述べています。

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武漢生物製品研究所は国営のSinopharmと共同で不活化ウイルスワクチンを作成した。中国およびアラブ首長国連邦で第3相試験を施行しており、年末には一般使用可能としています。
またSinopharmは北京生物製品研究所と共同で2番目の不活化ウイルスワクチンも作成し、同様に中国およびアラブ首長国連邦で第3相試験を施行しています。

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中国の民間企業のSinovac Biotechは不活化ウイルスワクチン(CorobnaVac)を作成し、7月に第1・2相試験を終了しました。ブラジルで第3相試験を行っています。年間1億本の生産能力があるそうです。

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オーストラリアのMurdoch Children's Research InstituteではBCGの第3相試験を行っています。

●第1・2相試験
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AnGes社は6月30日、大阪大学、タカラバイオと共同で開発されたDNAワクチンの臨床試験を開始したことを発表しました。

出所:「Coronavirus Vaccine Tracker」The New York Times
https://www.nytimes.com/interactive/2020/science/coronavirus-vaccine-tracker.html

[5]児玉名誉教授の「免疫パスポート」なんてあり得ない

新型コロナウイルス感染症の抗体検査を用いて大規模な調査が実施されることは、以前の記事にも記載したところです。その抗体検査を、どうのように日々の安全・安心に繋げていくのかは未だ明確になっていません。
新型コロナウイルス抗体検査機利用者協議会のアドバイザー会議代表である、東京大学先端科学技術研究センター 児玉龍彦 名誉教授が語る、抗体検査の意義や検査システムの活用方法をご紹介します。

──抗体検査をどのように活用することをお考えですか。

児玉:疫学調査のための活用を提案しています。抗体検査陽性者が多いユニットを見つけます。そのユニットでは感染が広がっている可能性がありますので、さらに個々人に対してPCR検査を行い、有症状の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者だけでなく、無症状の感染者も拾い上げます。

疫学調査のための抗体検査で、個人を対象に、抗体があれば通常の生活ができると判断する「免疫パスポート」とは意味が違います。
軽症者や無症候者では、PCR陽性者の0~30%程度が抗体陰性となることを我々協議会の調査で明らかにしました。平均すると2割程度は抗体陰性となる可能性があると考えています。

──軽症例、無症候例を中心に抗体価が上がらない、すなわち抗体陰性でもPCR検査陽性のケースが一定数存在するということですね。30%もそのような例が存在するとなると、「免疫パスポート」構想は無理ですね。ところで、「抗体価が上昇しない」というのは何を意味するのでしょうか。

児玉: 一つは、細胞性免疫でウイルスを排除できているというシナリオです。細胞性免疫の段階で感染防御ができれば、抗体産生という液性免疫の動員は不要になります。

もう一つのシナリオは、免疫の反応が弱く、ウイルスの抗原性を認識できない、という場合。免疫反応が生じなければ、症状も出ず重症化もしません。しかし、ウイルスは体内で増殖し、ばらまかれます。いわゆるスプレッダーです。このような場合は、ウイルスをばらまいてしまうので問題になります。

──免疫反応が生じなければ、本人は症状を訴えないのですね。

児玉: COVID-19を重症化させているのは、宿主側の免疫反応です。
COVID-19患者の抗体を測定すると、IgM抗体とIgG抗体はほぼ同時に上昇している。
コロナウイルスファミリーは核酸の相同性が高いのです。SARS-CoV-2はSARSウイルスと80%同じで、通常のかぜコロナウイルスとも50%の相同性を持ちます。となると、免疫記憶が働きます。免疫記憶があると、通常、IgM抗体とIgG抗体は同時に立ち上がります。

良い面は、交叉免疫による感染制御です。東アジアにおけるCOVID-19の死亡率の低さは、過去に感染したかぜコロナウイルスに対する交叉免疫が関与している可能性が高いでしょう。
悪い面の代表例は、抗体依存性感染増強(ADE)です。

また、SARS-CoV-2は非常に変異が速いことが知られています。そうなると、例えば、ある時期流行しているSARS-CoV-2に有効な中和抗体が体内で産生できるようになっても、次のシーズンではウイルスに変異が生じ、その中和抗体が作用しなくなる可能性もあるでしょう。

──変異が速いそうですね

児玉 1人の患者の中でも、ゲノム変異が生じているほどです。この変異の入りやすさは、ウイルスの特徴ですが、患者動向にも影響しているのではないかと考えています。国内の患者数をみると、急に増えたかと思うと急に減っていませんか。ウイルス自体の問題も影響しているように感じています。

すなわち、急速に変異が入っているので、ヒトへの感染性が強いウイルスがワッと広がるものの、そのウイルスにも変異が入り、感染力が自然に弱まって、患者数も急速に減るというわけです。

ウイルス次第なので人間には予測できない、というのが私の考えです。とはいっても、緊急対応が必要であり、今年のウイルスに有効でありさえすれば、ワクチンを開発することに意味があると思っています。次のシーズンにも有効かどうかは後で考えればいいのです。

──COVD-19対策は長期戦になり得るということですね。

児玉:もっとスマートなやり方があるでしょうと言いたいです。21世紀型の対応として、我々が提唱しているのが、無症状者を把握するためユニットごとに疫学調査目的で抗体検査を実施し、抗体陽性者が多いエリアで感染者を同定するためのPCR検査を行い、その集団に最適な介入を行うというものです。一方、感染者がいない集団では普段通りの生活を可能とします(図3)。

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図3:新型コロナウイルス抗体検査機利用者協議会が推奨する検査の位置付け

出所:「「免疫パスポート」なんてあり得ない、ただし...  ~東京大学先端科学技術研究センター名誉教授の児玉龍彦氏に聞く」日経メディカル2020/07/23
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/report/t344/202007/566487.html

[6]大木隆生先生の提言骨子「新型コロナは日本人にとって怖くない」

新型コロナウイルス対策は長期戦になりうる、という児玉先生の指摘をふまえ、新型コロナウイルスに対して、私たちがどういう心もちで臨んだらよいか、東京慈恵会医科大学医学部外科学講座統括責任者・対コロナ院長特別補佐である大木隆生先生が首相官邸において開催された第42回未来投資会議で発表された内容を最後に紹介します。新型コロナウイルスとの共生を図る方法を考えよう、という姿勢に共感を覚えます。

COVID-19 感染症(新型コロナ)に関して

1)経済と国の財政に多大な負担を強いた非常事態宣言・外出自粛により、新型コロナ患者数を一時的に減少させることができたがその効果も 2 か月しかもたなかった。2 度と繰り返すべきではない。

2)現実的ではない「新コロを封じ込める」という考えから発想を転換し「新コロと共生」をめざすべき

3)新型コロナは欧米においては恐ろしい感染症であるが、なぜか日本人にとっては季節性インフルエンザ程度の病気で新型コロナは怖くない。それは日本での人口当たりの死者数が欧米の約 100 分の一である事やオーバーシュートが起こらなかった事など、過去半年間の経験とデータをみれば明白。従って欧米での経験・政策、それに基づいた WHO の見解は日本にとって参考にならないものが多い。日本独自の対策が求められる。

4)これまで実施された一般を対象とした抗体検査(0.1%-8%)、PCR 検査(1-3%)から日本には既に数百万人単位の感染者がいたことになるが、それこそ多数の無症候性患者がいる事の証明である。したがって死亡率は季節性インフルエンザと同程度の 0.02―0.04%前後。

5)また、日本における 2020 年上半期の死因別ランキングで新型コロナは第 41 位(約 900 人)。毎年3000 人ほどの死者が出る季節性インフルエンザは 37 位。

9)ただ、別な観点から医療崩壊リスクは現状存在する。日本の対人口当たりの医師数も、医療費の GDPに占める比率も G7中最低であり、そのためもあり、新型コロナ以前から救急患者のたらいまわしに代表される医療崩壊が叫ばれていた。そこに新型コロナが上乗せされたので受け皿は小さい。新型コロナを受け入れた病院の 9 割が赤字で、新型コロナが恐るるに足らずとは言え、このままでは「新型コロナのたらい回し」が起きる。従って、新型コロナに対応している病院への思い切った財政支援をすることで新型コロナを病院にとって「貧乏クジ」から「当たりクジ」に変えることで医療崩壊閾値を格段に上げることができ、国民も安心して経済を回せる。なお、徹底したゾーニングなど真摯にコロナ対応をした慈恵医大の今年度の赤字額の見通しは 30 億円であり存亡の危機にある。

10) 高齢者施設や病院での院内感染による死者数が全体の 20-40%を占めているのでこれら弱者を守ることで死亡率をさらに下げることができる。そこで公費負担で入院する患者と共に、施設・病院従事者に対して毎週一回程度の PCR を実施すべき。

11) 新型コロナは第二類感染症に指定されているので PCR 陽性と判定されたら隔離等が必要となり、これが保健所も医療も無駄に圧迫している。今後は高齢者を中心とした中等・重症者が徐々に増える事が想定され、無症候性、軽症者を極力入院させず、新コロナ病床に常に余裕をもたせ、治療の必要のある患者に入院を特化させる体制を築く事が医療崩壊を防ぐ上でもう一つのポイントとなる。罹患し症状が出たら、いつでも受診・入院加療が出来る事で国民の安心感も担保できる。

12) 冒頭の「新型コロナは季節性インフルエンザと同程度」を疑いのないレベルで証明するには「真の患者数」と「真の死亡率」を算出すること以外に方法はなく、より広く一般人を対象に PCR 検査を試験的に実施すべきである。そして早急に「第二類感染症からダウングレード」すべき。なお、日本人が自然免疫で駆逐した場合には獲得免疫・抗体が動員されないので抗体検査は有用ではない。

13) 結論として、新コロナは日本人にとって怖くない。国民にそれを啓蒙し、実害のない「新規陽性者数」に一喜一憂せず、経済的に新コロナ対応病院を援助し、第2類感染症指定をはずすことで医療崩壊は防げる。そしてこの「日本の特権」を活用し、このまま基本的な感染対策を遵守し、国民の生活と経済優先で進めるべきである。

出所:首相官邸「日本経済再生本部・未来投資会議」第42 回未来投資会議 資料4より一部抜粋
第 42 回未来投資会議での大木隆生発言骨子
慈恵医大 外科統括責任者・対コロナ院長特別補佐 大木隆生
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai42/siryou4.pdf