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Vol.8(2020/5/28)感染症の影響・がん発見件数も低下/高血圧症・心臓疾患の薬/Tリンパ球の細胞性免疫/ほか

5月25日に緊急事態宣言が全国で解除されました。とはいえ新型コロナウイルス感染症が収束したとはいえない状況ですから、「新しい生活様式」を取り入れながら社会・経済活動を再開していくものと思います。

緊急事態宣言下においては感染リスクを考慮し外出等の移動自粛が求められておりましたが、実は医療機関においても手術の延期や外来診察の中断など様々な制限が強いられてきました。

日本だけでなく、世界各国でも救急外来、がん検診などが減少したことが少しずつ明らかになっています。
短期的には、こうした行動制限は止むを得ないことでしたが、治療が必要な疾患やがんは待ってくれません。

皆様お一人おひとりの新しい生活様式の中に、ご自身の健康を良好に保つための通院や健康診断を前向きに取り入れることをおすすめします。

当クリニックでも、受診される皆さまに安心して、安全に受診いただける環境を準備しております。

[1] 新型コロナウイルス感染症の影響は、医療の多方面に出ています

予定されていた手術が延期となったり、患者さんの受け入れが制限されたりと、病院や医療機関の経営が非常に悪化していることはすでに報道されている通りです。

経済的な影響以外にも、心筋梗塞、脳梗塞、癌などの疾患の発見に重大な影響が出ており、今後はこのダメージ回復が大変重要になります。

(1)心筋梗塞の入院患者さえ減りました。

外出制限で心筋梗塞自体が減った可能性もありますが、在宅ストレスが増え、運動不足になりメタボ傾向にもなっているので、心筋梗塞自体が減ったとは考えにくい状況です。

やはり胸痛があっても自宅で我慢した人がいる可能性があります。
論文では下記のように2020年3月からの心筋梗塞入院(茶色)は2019年(黄色)より3割は減っています。

(図1)

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(出所)The Covid-19 Pandemic and the Incidence of Acute Myocardial Infarction. NEJM May 19, 2020 DOI: 10.1056/NEJMc2015630
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2015630

米国全体でもやはり心筋梗塞、脳梗塞での救急外来受診が減っています。

(図2)急性心筋梗塞の救急外来受診率

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(図3)脳梗塞での救急外来受診率

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(出所)Trends in Acute MI and Stroke in the ED During COVID-19
https://ehrn.org/trends-in-acute-mi-and-stroke-in-the-ed-during-covid-19/

(2)それ以上にがん疾患のスクリーニング件数が極端に低下しています。

今後は進行がんで見つかる方が急増する可能性があります。
新型コロナウイルス感染症がまん延している時期でも、がんが待ってくれるとは思えません。
緊急事態宣言が緩和されたら、安全ながん検診を推奨すべきでしょう。

(図4)

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(出所)Delayed Cancer Screenings
https://ehrn.org/delays-in-preventive-cancer-screenings-during-covid-19-pandemic/

[2]高血圧や心臓疾患のお薬と新型コロナウイルス感染症について

新型コロナウイルスは気道粘膜細胞であるACE2を介して細胞内に入ります。
そのためACE2の量を増やす可能性のある降圧剤のACE阻害薬(ACE-I)やアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が新型コロナ感染症を増やすのではないかと議論が出ていました。

ACE阻害薬(ACE-I)やアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、高血圧症だけでなく心臓疾患の治療にとって大変重要なお薬であるため、薬を変更すべきかどうか悩んだ人も多数いらっしゃいましたが、5月にはいってから新型コロナウイルス感染症との関連についての実証研究結果や論文が発表されました。

(図5)ACE2(アンギオテンシン変換酵素2)の役割とコロナウイルスとの関連

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(出所)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsr2005760

下記の表にまとめておりますが、5つの有名雑誌の論文はすべて、ACE阻害薬(ACE-I)やアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は新型コロナウイルス発症や重症化・死亡に関与しないという報告でした。新型コロナウイルス感染症の不安からお薬を変更する必要はなく、継続使用して問題ないという結論に至っています。

しかしながら基礎疾患のある方、日常的にお薬を服用されている方は新型コロナウイルス感染症に関わらず定期的な受診や検査等が推奨されます。スマートフォンなどを用いたオンライン診察や電話診察を取り入れている医療機関も多数ありますので、活用できるものを取り入れながら定期的な受診を心掛けてください。

(表1)

論文 参加人数など ACE-I
aRR*
ABR
aRR*
その他
新型コロナ感染症 発症リスクについて
2 ニューヨーク大学で検査した12594名中 5894名が陽性 1.00 1.03  
3 イタリア、患者6272名と対照者30759名の比較 0.96 0.95  
4 クリーブランドクリニックで検査した18472名中 1735名が陽性 0.89 1.09 ACEI+ARBでは 0.97
5 マドリード、患者1139名と対照者11390名の比較 0.80 1.10 すべてのRAA系薬剤 では0.94
特に糖尿病もあり、RAA系薬剤を服用している人では0.53
新型コロナ感染症 重症化・死亡リスクについて
1 世界の169医療機関で、8910名の患者のうち515名が死亡 0.33 1.23  
2 ニューヨーク大学で検査した12594名中 1002 名が重症 0.88 1.00  
3 イタリア、重症者617名の検討 0.91 0.83  
5 マドリード、重症者393名の検討 0.92 1.25 すべてのRAA系薬剤 1.08

(補足)*: aRR (補正相対リスク)について:
対照と比べた時にリスクがどのぐらい上昇するか、年齢構成など他の要因を合わせたうえで比較したものです。
1以下はリスクが低く、1以上はリスクが高いが、統計処理で本当に意味があるかどうか検討します。
一般に1.5程度以上あればリスクが高くなりますし、0.5程度以下なら低いといえます。

(出所)
論文1) Cardiovascular disease, drug therapy, and mortality in COVID-19. N Engl J Med. May 1, 2020
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2007621
論文2) Renin-angiotensin-aldosterone system inhibitors and risk of COVID-19. N Engl J Med. May 1, 2020
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2008975
論文3) Renin-Angiotensin-Aldosterone System Blockers and the Risk of Covid-19. N Engl J Med. May 1, 2020
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2006923
論文4) Association of use of angiotensin-converting enzyme inhibitors and angiotensin II receptor blockers with testing positive for coronavirus disease 2019 (COVID-19). JAMA Cardiol. May 5, 2020
https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2765695
論文5) Use of renin-angiotensin-aldosterone system inhibitors and risk of COVID-19 requiring admission to hospital: a case-population study. Lancet May 14, 2020
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31030-8/fulltext

[3]Tリンパ球の細胞性免疫について

免疫には免疫グロブリン抗体などの液性免疫と、Tリンパ球などの細胞性免疫があります。

抗体の話は以前からいろいろ出ていますが、最近は新型コロナウイルスに対する細胞性免疫の研究も出てきました。
結論は、健常人には感染前から新型コロナウイルスに対する細胞性免疫を持っている人がいるということでした。この細胞性免疫が初期のウイルス排除に役に立っている可能性があります。

(1)このドイツの論文では健常人の34%がすでに新型コロナウイルスに反応するTリンパ球(CD4)を持っているというものでした。

CD4は免疫記憶に関係しており、過去のコロナウイルス感染症でコロナウイルスに共通の抗原に対する細胞免疫反応が形成されていると考えられました。

(2)この論文では健常人対象として2015年から2018年に採取された血液が使用されています。
これらの人は明らかに新型コロナウイルスに感染していません。
彼らはその人たちの40-60%ですでに新型コロナウイルスのいくつかの部位に反応するTリンパ球を持っていたと結論しています。

やはり理由としては過去のコロナウイルス感染症でコロナウイルスに共通の抗原に対する細胞免疫反応が形成されていると考えられました。(図6参照)

(図6)

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(出所)
論文1)Presence of SARS-CoV-2 reactive T cells in COVID-19 patients and healthy donors
medRxiv : https://doi.org/10.1101/2020.04.17.20061440
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.17.20061440v1
論文2)Targets of T cell responses to SARS-CoV-2 coronavirus in humans with COVID-19 disease and unexposed individuals. Cell :May 14, 2020DOI:https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.015
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)30610-3

[4]ワクチン開発情報もどんどん出てきています

現在、臨床試験に入っている主なCOVID-19ワクチンは下記の表のとおりです。

(図7)

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(出所)新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】(5月22日UPDATE)
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/17853/

また、5月中旬以降下記の3つのニュースが発表されました。

(1)米国

アメリカの製薬会社「モデルナ」は、NIH(アメリカ国立衛生研究所)と共同で、ことし3月から新型コロナウイルスのワクチン(mRNA-1237)の臨床試験を行っています。
モデルナは18日、ワクチンの働きと安全性を確かめる第1段階の臨床試験の初期の結果として、ワクチンを接種された8人の間で、血液中の新型コロナウイルスに対する抗体の値が上昇したと発表しました。 モデルナは、すでに接種するワクチンの分量などを検証する第2段階の臨床試験へと進むための承認を得ていて、7月には最終的に効果や安全性を確認する第3段階に進む見通しだとしています。

(出所)モデルナ米企業 新型コロナワクチンの臨床試験で「抗体の値が上昇」 2020年5月19日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200519/k10012435531000.html

(2)英国

英オックスフォード大のワクチン候補、第2・3相試験開始へ
アストラゼネカは9月にも最大3000万回分のワクチンを用意する計画
英国のオックスフォード大学と製薬会社アストラゼネカは1000人余りを対象とした第1相試験を完了。 第2相では対象年齢を5~12歳の子供と56歳以上の成人に拡大し、さらに第3相では18歳以上のボランティアを募り、多数に対する有効性を確認する予定です。
成人の被験者は無作為にグループ分けされ、オックスフォード大学が開発するワクチン候補か、すでに承認を受けている髄膜炎ワクチンのいずれかの投与を受け結果が比較され、ボランティアは英全土から採用されるそうです。

(出所)英国の新型コロナワクチン候補、後期臨床試験開始へ-1万人超を採用 2020年5月22日
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-05-22/QAQ5M0DWX2PS01
http://www.ox.ac.uk/news/2020-05-22-oxford-covid-19-vaccine-begin-phase-iiiii-human-trials#

(3)中国

中国の軍事医学科学院生物工程研究所などの研究チームは22日、開発中の新型コロナウイルスのワクチンについて、湖北省武漢市で行った第1段階の臨床試験の結果、参加者の約6割から感染を防ぐ可能性のある抗体を確認した発表しました。

(出所)中国開発のワクチン、臨床試験で6割から抗体確認...英誌に発表 2020/05/23
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20200523-OYT1T50150/

Lancet誌の論文によると、研究チームは18~60歳の健康な男女108人を、投与量に応じて3グループ(各36人)に分け、安全性と効果を調べました。4週間後には投与量が少ないグループと中間のグループでは各18人(50%)、多いグループでは27人(75%)に抗体ができていました。細胞性免疫は14日目がピークだったそうです。
研究チームは既に、500人を対象とした第2段階の試験に入っているそうです。

(論文)
Safety, tolerability, and immunogenicity of a recombinant adenovirus type-5 vectored COVID-19 vaccine: a dose-escalation, open-label, non-randomised, first-in-human trial. The lancet :May 22, 2020 DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31208-3•
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31208-3/fulltext

◆日本の状況:アンジェス、田辺三菱製薬、塩野義製薬

日本企業では、アンジェスと大阪大がDNAワクチンを共同で開発中です。
タカラバイオが製造面で協力し、化学大手のダイセルが有効性を高めるための新規投与デバイス技術を提供、現在は非臨床試験を実施中です。

田辺三菱製薬もワクチン開発に乗り出しています。
カナダ子会社のメディカゴが植物由来ウイルス様粒子を使ったCOVID-19向けワクチンを開発中。非臨床試験の中間結果で良好な結果が得られたことを明らかにしており、8月までに臨床試験を開始するために規制当局と協議しています。

順調に進めば、臨床試験は来年11月に終了する予定です。

塩野義製薬は、グループ会社のUMNファーマが日本医療研究開発機構(AMED)の事業に参画して組み換えタンパク抗原の作製を進めており、年内の臨床試験開始に向けて厚生労働省などと協議を進めています。